メンター 塾 一久

塾 一久

40年、劇団文学座の俳優として活躍。声優としても、海外映画やアニメの吹き替えを多数こなしている。現在ケンユウオフィス所属

出演歴

文学座出身。「天守物語」で初舞台後、「華岡青洲の妻」「はなれ瞽女おりん」「夏の夜の夢」など数多くの舞台に出演、蜷川作品だけでも「オイディプス王」「エレクトラ」「カリギュラ」「冬物語」「ヘンリー四世」など多数。声優としてもアニメ「攻殻機動隊」「カーズ」など、洋画・海外ドラマ吹替などでも活躍中。

俳優について

声優・俳優を目指すきっかけ

僕が小学生のころ、海外ドラマやアニメのテレビ放送が始まりました。海外ドラマの吹き替えに感心したり、TV時代劇「隠密剣士」などを見て、「将来はテレビに出る人になりたい」と思いました。

高校では演劇部に入って、俳優や歌手の物まねをやったり、文化祭で発表したりしていました。でも、テレビや映画で活躍するには、演劇の基礎から本格的に勉強しなければと思って、日大の芸術学部に進みたいと考えました。
しかし、父親に反対されて、受けさせてくれなかったのです。
一年後、やっと認めてもらって進学しました

日大から文学座に入るまで

日大に進学後、4年生の時に劇団をいくつか受ける予定でしたが、3年生の時に「文学座は入団するの難しい」という話を聞きました。
「じゃあ、今年受けてみよう!ダメだったら来年考えよう」と文学座の試験を受けて、なんと合格。そのまま文学座に所属にすることになりました。
ちなみに、文学座の一つ上の先輩に松田優作さん、同期に中村雅俊さんや本田博太郎さん、藤田三保子さんがいました。

俳優としての転機

俳優としての大きな転機は二つあります。
一つ目は、24歳の時に文学座で、新劇界のNO1といわれる演出家、木村光一さんと出会ったことです。木村光一さんに育ててもらったといっても良いくらい、色々な舞台に出させてもらいました。
二つ目は、蜷川さんの舞台「オディプス王」でコロスの長老と神官役をもらったことです。
その縁から、蜷川さんの演出する色々な舞台に出させてもらいました。
木村光一さんと蜷川幸雄さんという二大演出家の舞台に出させてもらったのが僕の誇りです。

声優の仕事

やっぱりテレビに出たいという気持ちがあり、時々ドラマや声優の仕事をこなしていました。声優は楽しくてやりがいがあり、積極的に仕事してました。
でも、劇団の舞台や公演があるとその期間は収録ができないため、俳優と声優を同時に続けるのはなかなか大変でした。

声優の仕事のやりがい

最初は「声だけで演技をするってどうなんだろう」と思っていました。しかし実際にやり始めて「ひょっとして、全く同じ役なら、舞台で演じるより、声優でやるほうがよっぽど難しいぞ」と思いました。
舞台は声だけじゃなくて、自分の動作や表情で役を伝えることができます。
でも、声をあてる場合(アフレコ)は、表情、動作、シーンは全部決められている。しかも海外ドラマは、文化の違いがあり、言い回しや動作が日本人とは違う。「ここでこんな動き?」「ここでこんな言葉を言うの?」みたいなことがよくあります。画面の人物の表情、性格、背景をくみ取って、日本人にも違和感なく伝わるように表現しなきゃいけない。それも声だけで。「え、これは難しいぞ・・・」と感じました。
ただし、難しいから逆に、面白くて刺激になります。
「単純に声をあてるだけ」ではなく、演技の基礎知識を持って、登場人物が抱えている人生の問題を見つめたうえで表現しなければならない。これが声優の奥深さですね。
それがきちんとできないと、声優を長く続けるのは難しいと思います。

声優、俳優の仕事を続けて楽しかったこと。

「感動した」「面白かった」と大きな拍手をいっぱいもらった時ですね。
舞台の「泣きのシーン」で、会場からすすり泣きが聞こえてくると、やってるほうも気持ちが高まります。人に感動を与えられたと思えた時はうれしくて「ああこの芝居やっててよかったな」って思います。
声優では、出来上がった作品の評判が良かった時がうれしいですね。
吹き替えの時に海外の俳優をみながら、「日本にはこんなタイプの役者いないなあ」と思ったり、勉強したりできるのも楽しいです。

また、声優も俳優も、色んな世界観とか人生観とかをたくさん味わえることが醍醐味ですね。元気であれば死ぬまでできる仕事なので、声が出る限り仕事を続けていきたいです。やっていて本当に楽しいですからね。

辛かったこと。

たとえ好きな仕事であろうとも、やりたいことを常にやれるわけではないので、「自分はこの役をやりたいのに、やらせてもらえない」というジレンマに苦しみました。
ただ、それでも辞めないのは、やっぱり好きでやっているということ、仕事自体が楽しくてしょうがないということです。
配役に違和感を持っても「どうせ仕事をやるんなら、楽しくやろう、いいものにしよう」って気持ちでやると、どんどん楽しくなっていきます。
また、いろんな役をやってると、だんだん仕事の幅が増えますしね。

好みのジャンルについて

悲しくて深刻なのに笑えるところもあるドラマが好きです。
木村光一さん演出の「はなれ瞽女おりん」は笑って泣けます。地人会で20年以上、再演され続けた作品です。基本的には、暗くて悲惨な物語なんですけど、木村光一さんが深刻一辺倒にせず、どこかに笑いがある演出を入れるのです。
だから、落語も好きですね。落語は笑いのイメージが強いのですが、モノによっては人情物や泣かせる話が結構あります。
シナリオクラブでも、心情を入れてしっかり読みあうと、レッスンの最後に会員さんが涙がぽろぽろ流すことがあります。
感動してくれてるんだ、って思うとうれしいです。

舞台でやってしまったこと

舞台の数が多いと、やっぱりセリフがとんだり、「でとちり」はあります。
登場シーンなのに登場し忘れたり、本来は登場しないシーンで登場してしまうのが「でとちり」です。
今でも覚えている「でとちり」があります。王と兵士のシーンで「これから〇〇をお呼びします」と言われてから自分が舞台に出る予定だったのに、その前にさっさと舞台に登場してしまった。その時、上川隆也さんが王様の役で、一瞬「え、なんでいるの」って顔をしていて、自分も「あ、!!」っとなりました。困ったな~と思って舞台の袖に戻ろうとしても、袖のドアがパーン!と閉まって、もう開けられない。仕方がないので舞台端の暗い所にこっそり寄って、とにかく目立たないようにしました。そのあと、芝居は何事もなかったように進んで、自分が呼ばれた時に隅の暗いところから出ました。待ってる間は肝が縮む思いで、なんとも言えないむず痒い思いを体験しました。

セリフを忘れる時

セリフがとんでしまった時(忘れた時)は、話の流れがこわれないように、自分でなんとかしてうまく進めたり、他の役者に助けてもらったりします。
ただ、セリフがとぶ時は演技に自信を持てていない時かな。
研修生の時代の失敗で、三島由紀夫の「鹿鳴館」を公演した時です。公演が始まる前に、病気で一週間稽古を休まざるを得なかったんです。回復して稽古ができるようになったけど、本番までは数日しかない。本番を迎えて「大丈夫だろうか、ちゃんとできるだろうか」と不安でした。舞台に出た瞬間、足が震えていましたよ。案の定、セリフがポーン!ととんだんです。しかもよりによって、長セリフ。さあどうするかと焦りました。一切アドリブできないセリフだし、言っても突っかかってしまう。「ようし、こうなったらセリフが出てくるまで何度でも言いなおしてやろう」と腹をくくって覚悟を決めたその瞬間、セリフが出てきました。

シナリオクラブについて

シナリオクラブで台本を読む方

読むのが上手な方は、内容や役柄、キャラクターをよく理解して、役に対応するのが早いと思います。あとは「この人、セリフ回しいいよね」と感じたり、ストーリーに興味を持つことが関係していると思います。演劇経験が全くない人で、いきなり上手な方はそうはいなくて、多少は演劇の経験があるとかも関係していると思います。

ただし、やってるうちに、ぐーっとうまくなる人はいますよ。
その差は何なんだろうと思う事があります。他の人のセリフを聞いて、「この人上手だな」「こういう風に読んでみたいな」って感覚を持つことかな。
すると、会員同士で触発されて、うまくなっていくのではないかなと思います。

また、演技の上手さと、感情表現の豊かさはつながっています。
シナリオクラブのリーディング教室は教えるわけではないので、声を出す読書として捉える方もいます。「どんな内容の本なんだろう」と興味を持って読みすすめていくのです。
でも、その中で「こういう役だからこんな風に読んだらどうかな」というように、表現を工夫する方はどんどん変わってきます。
なので、「おや、すごくうまくなったなぁ」という会員さんが多々います。
また、「声のデザイン」みたいに教えるクラスでは、少しアドバイスしたら、結構伸びる人がいますね。

会員さんに持って帰ってほしいもの

本を読むのが好き。っていう気持ちがあればいいし、なかったとしても気にせず、気軽に来てください。題材によって笑ったり、感動して涙を流したり、俳優さんの色々なエピソードで談笑しましょう。帰るときに今日ここでやったことが「ああ、楽しかった!」と感じてくれればいいかなと思ってます。

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