メンター 角間 進

角間 進

劇団青俳出身、俳優として40年以上の実績。演出家の蜷川幸雄氏や栗山民也氏が手掛ける舞台に数多く出演。「放浪記」では、森光子氏と10年近く共演した。

出演歴

 

俳優について

俳優になろうとおもったきっかけ

元々、実家が酒屋で、長男だから継がなきゃと、千葉商科大学の経営学部に入ったんです。ところが、大学が全然面白くない。
「何か面白いことはないか」と、大学の演劇部に入部しました。
部活の先輩がとても良い人で、クラブ活動ばかりしていた覚えがあります。
全然勉強していなかったので、「演劇じゃなくて、勉強をしろ」と周りから言われていました。でも、先輩から「そんなに演劇に一生懸命になれるのなら、プロの道に進んだら?」とアドバイスを受け、19歳の時に、新劇の劇団青俳の試験を受けたんです。

「劇団青俳」の養成所に入団後

「劇団青俳」には、岡田英次さんや、木村功さん、蟹江恵三さん、石橋蓮司さんなど、有名な俳優がいました。ただ養成所は、大学に行きながら通う理論家が多かった。
酒屋の息子だった僕は、新劇もシェイクスピアもわからなかったんです。
一年間通って、「自分にはこういうところは無理なのかもしれない」と思ってやめようと思ったのですが、所長の本田延三郎さんが、僕の芝居を評価してくれ、「残ってくれないか」と言ってくれたんです。ちょうどその頃、弟が実家の酒屋を継ぐことになりました。
だから自分は演劇の道に進んでいけるなと考えていたんです。

ところが、劇団が「劇団青俳」と「現代人劇場」の二つに分かれた。
本田延三郎さんや木村功さんは「劇団青俳」に残り、蜷川さん、岡田英次さん、蟹江さんは「現代人劇場」に行きました。蜷川さんから、「新しい芝居をやるからどうだ」と誘われました。当時の僕は、自分の演技の質を考えず、「現代人劇場」のほうに所属したのです。

でも、「現代人劇場」は前衛的な劇団で、自分のやりたい芝居と少し違った。それでその後、僕は「現代人劇場」を出ることにしたんです。
そのあと、岡田英次さんの奥さんが作った、演劇を教える私塾に通いました。夜のアルバイトをしながら一年間通ったかな。朝から晩まで芝居漬けの毎日で、やっているうちに自分の芝居の方向性がわからなくなってしまいました。

俳優としての転機

私塾をやめた後、NHKの大道具のアルバイトをやっていました。夜中のきつい仕事だったのを覚えています。その時に柄本明さんや東京ヴォードビルショーの石井愃一さんと出会いました。
ある時、私の事務所のマネージャーから「蜷川さんが今度、商業演劇を東宝でやるので、そこに出ないか」という話が来たんです。蜷川さんが「ロミオとジュリエット」「リア王」の公演を終えて「オディプス王」を日生劇場でやっていた時期でした。
「また使ってくれるのかな・・・?」と不安だったけれど、「ぜひ出たい」と伝えたら、舞台に出してくれて、そこから蜷川さんの作品に呼ばれるようになりました。
その後、東宝のプロデューサーの岡本さんと演劇論を交わしながら一緒に飲んだりしているうちに、色々な人と出会いました。演出家の栗山民也さん、佐藤B作さんなど。森光子さんとも、その人を通じて出会いました。

俳優でもっともよかった出来事

栗山民也さんと知り合って、「國語元年」という作品に出られたことです。この作品は脚本が井上ひさしさんで、演出が栗山民也さんなんです。
もともと、井上ひさしさんの脚本がすごく好きで、こういう面白い芝居をやりたいなと思ってたんです。でも、こまつ座の芝居に出られるとは、夢にも思っていなかった。
ところが、栗山さんが僕をキャスティングしてくれた。俳優をやっていて本当に良かったです。

森光子さんの放浪記のきっかけ

プロデューサーの岡本さんを通して、森光子さんと仲良くなりました。
僕は、森光子さんの新作では、ほとんど共演をしていたんですが、放浪記だけはキャスティングが固まってて、ずっと役はまわってこなかった。
ある時、岡本さんから「アンサンブルだけど、放浪記に出ない?」と言われたんです。その役の後、行商の役をやることになって、そこからずっと森さんと一緒でした。
放浪記の2017回のうち、終盤の300回くらいは、ずっと森さんと共演しました。

森光子さんはどんな人か

みんなに優しくて、面倒見がいい人でした。
森光子さんは、森繁久彌さんや山田五十鈴さんなど、すごい方々と芝居をやっていたけど、
芝居の上手下手よりも、一生懸命な人が好きだったんじゃないかな。
森光子さん自身が脇役から始めて演劇の世界を上がっていって、色んな人を見てきたから、人とは違う価値観を持っていたんだと思います。
正直な人がとても好きで、いろいろ気にかけていたのを覚えています。

これまでの役について、

若い時はドラマチックで、劇的なシーンの役が好きでした。でも、そんな役が毎回もらえるとは限らない。
もらった役の中で、色々工夫し、相手役とのやり取りが面白くなるように考えていました。そのため、何気ないシーンや役でもすごく面白く思えるようになり、それを森さんや三木のり平さんも認めて下さいました。「この役はこんな風に演じないといけない」などと、がんじがらめに考えると、役作りが目的になって、つまらなくなってしまう。

栗山民也さんや森光子さんは、「台本にある自分のセリフを言うこと」ではなく、相手の芝居を聞いてから応える、リアルなセリフや演技を求める。相手役と交流するような、自然な芝居はとても面白かった。
森光子さんは日々の芝居を楽しんで、本当に喜んでやっていました。相手役が変わると、どういう風にセリフがきて、それをどう返すか、そこに新鮮な面白さがあったのかな。だから放浪記は、2017回もできたのだと思います。

シナリオクラブについて

会員の方を見て思う事

会員さんには、プロが持っていない良さがあります。
プロは、演技について、長年培った固定観念のようなものがあります。
でも会員さんのセリフを聞くと、「なるほど、こういう見方をするのか」と逆に勉強になります。
人は、みんな個性があるので、同じ台本読んでも、それぞれ読み方が違います。
でも、読み方が違っても、同じように受け止めて、泣いたり、笑ったり。
読み終わった後に、作品から何かを感じてくれて、考えてくれると嬉しいですね。
また、台本を読んだあと、会員さんが自分自身の人生について話してくれることがあります。色々思い描きながら読んでくれたんだなあ、この台本を勧めてよかったなって思います。

演劇の「上手さ」について

台本への向き合い方が重要ですね。楽しく読もうとする人と、読書のように読む人では目的が全然違います。
「この芝居をどうやったら面白くできるかと考えている人」と「面白いストーリーを読みたい人」との違いです。読書と捉えてしまうと、面白い台本でも、感情は動きにくいものです。また、固定観念にとらわれ過ぎているとつまらない。
「この人物像はこうだから」とか、「芝居のテーマはこれ」とか、ガチガチに固めると、誰がやっても同じ芝居になって、個性が出ません。
役作りは必要だけど、自分自身を出さないと面白くならない。
蜷川さんは「ある程度ベースができたら、その人の個性とかキャラクターとか味とか風情とかを引き出さないと面白くない」と言ってました。

会員の方に持って帰ってほしいもの

面白く読んでもらったら、最高です。なるべくリラックスして楽しんでほしい。
感情移入して涙が出たり、笑って読めなくなったりと、感情が動いてくれると嬉しいです。そのために、どうしたら面白く読んでもらえるかをいつも考えています。

僕たちはプロなので、常にダメだしされてきました。いい芝居を作った達成感はあるけど、芝居をやってる喜びはどうだろう・・と考えることがあります。
公演でロンドンのナショナルシアターに行った時は、海外の俳優はビールを飲みながらやっているんです。海外ではリラックスして演じることを求められているんだなと思いました。
リラックスしないと自分のいい部分が生きてこない。だから、シナリオクラブではリラックスして相手役の人と交流してほしいです。

 

シナリオクラブに興味がある方へ

シナリオクラブで、シェイクスピアから大衆演劇までいろんなジャンルを幅広く読んでもらいたいな。役作りやテーマはとりあえず置いといて、素直に生き生きと読んでもらえれば、芝居の面白さがわかると思う。
読んでいるうちに、その役にぐっと乗ってきた瞬間が来たり、読んだ後に自分の生活や人生について考える機会になったりしますよ。

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