こんにちは。スタッフの竹森です。
前回の演劇の市場について調べてみた記事が結構閲覧されていました。うれしい!
一方で、2.5次元ミュージカルはどうなんだという意見もありました。
確かに2.5次元ミュージカル市場は盛りあがっているのですが、なぜ盛り上がっているのだろうか気になっていました。そこで、2000年から2.5次元ミュージカルの流れを含めて色々調べてみました。
<目次>
1.市場と流れ
・2.5次元ミュージカルの市場
・2001年の動員数上昇と、2003年~2010年までの出来事
・2012年にタイトル数と公演数の急激な増加
・2014年の出来事
・2015年以降
2.観劇層について
・2.5次元ミュージカルの年代と性別
・海外の観劇層へアプローチ
3.ビジネスモデルの話
・2.5次元ミュージカルの収益について
・赤字公演が日数の増加とともに黒字化
1.市場と流れ
・2.5次元ミュージカル市場
2.5次元ミュージカルの市場ですが、右肩上がりで2017年には動員数、市場規模、タイトル数ともに過去最大!
ぴあ総研の2.5次元の定義と市場規模の算出方法について
本調査では、2.5次元ミュージカル(2次元の漫画・アニメ・ゲームを原作とする3次元の舞台コンテンツの総称)の公演チケット販売額を推計し、2.5次元ミュージカル市場規模を算出しています。
日本の漫画、アニメ、ライトノベル、ゲーム、動画サイトを原作とし、舞台コンテンツとして上演されたもの。
*1 原作が国内の漫画・アニメ・ゲームである=海外のものは含まない
*2 生身の人間が演じている=マスクや着ぐるみのみは含まない
*3 ファミリーショー、特撮ショー、人形劇は原則のぞく。
ということで、データの市場規模はチケット販売額に基づいたものとのこと。
2.5次元ミュージカルはDVDやメディア展開による収益もあるので、市場規模はもっと大きいかもしれません。
・2001年の動員数上昇と、2003年~2010年までの出来事
2001年に一時的に動員数と市場規模の上昇が見られます。
この年は宝塚歌劇団の「ベルサイユのばら」や劇団新感線の「犬夜叉」、マーベラスの「Hunter×Hunter」「こち亀」などが話題で、2.5次元ブームが起きたのではないかと。しかし追加公演はあるものの、ロングランには至らず、一過性のブームで終わったのかなと思います。その後、2003年ミュージカル・テニスの王子様(以後、テニミュ1st)の初公演が始まります。
初演の好評を受けて、2003年夏には追加公演が行なわれ、その冬の「ミュージカル『テニスの王子様』Remarkable 1st Match 不動峰」からは本格的にシリーズ化。基本的にはライバル校ごとに、夏・冬の1年2回の公演が続く。
【テニミュ】マジ半端ない! ミュージカル『テニスの王子様』10年の軌跡と魅力を徹底解剖
記事を見ると、テニミュ1stの初演の段階では、他の公演と同じく、単発公演の予定だったのかなと思いました。しかし、最初は空席があったものの、口コミでどんどん熱が広がっていき、追加公演も順調、手ごたえを感じ、シリーズ化して2010年の1st完結まで、7年ものロングラン公演になったのだと思います。テニミュ1st以外にも2.5次元ミュージカルはありましたが、テニミュ1stの知名度と与えた影響は非常に大きかったと思います。「若手俳優の登竜門」とまで言われてました。
テニミュ1stの公演が終了した2010年、東日本大震災の影響があった2011年は一時的に市場規模が落ちます。知り合い曰く、テニミュ1stロスがあったらしい。
・2012年にタイトル数と公演数の急激な増加
2011年からミュージカル・テニスの王子様2nd(テニミュ2nd)が始まりますが、テニミュ1st終了によるの燃えつきと、震災の影響で初演が遅れるなどあり、初公演は空席が結構あったという話を聞きました。
しかし、テニミュ2ndは2011年夏の「氷帝編」(高校名)から人気が高まっていったようです。同時にテニミュの主催でもある株式会社マーベラスが2012年に合併、東証一部上場してマーベラスAQLになり、2.5次元舞台へ一層、力を入れてます。
映画館で2.5次元ミュージカルを観劇するライブビューイングも2012年ごろから少しずつ広がりをみせ、次々と新しい2.5次元ミュージカル舞台が出現し、業界全体が盛り上がり、タイトル数と公演数の増加につながったのではないかな思います。
真山 2011年がちょうど『テニミュ』の2ndシーズンが始まった年で、2012年は『ペダル』のシリーズ初演と、乙女ゲームの人気作の舞台化『ミュージカル薄桜鬼』(=薄ミュ)シリーズの初演と、『テニミュ』の関東立海公演――これは『テニミュ』のシリーズとして後半戦に入る直前の盛り上がる公演です――その三つが重なって観劇に行くお客さん自体も増えたように思います。2011年から2012年にかけては、動員数も60万人以下から120万人規模とほぼ倍に増えていることが協会の資料からもわかります。
「2.5次元って、何?」――テニミュからペダステまで、「2.5次元演劇」の歴史とその魅力を徹底解説
上記のように、のちの2.5次元ミュージカルの人気作、舞台弱虫ペダル(ペダステ)ミュージカル薄桜鬼(薄ミュ)シリーズの初演も2012年です。
・2014年の出来事
舞台の動員数と公演回数の減少
2013年まで順調に伸びていたのですが、2014年~2015年にかけて動員数が少し減ります。
2014年は宝塚歌劇団の100周年記念で色々なイベントがあり、そちらに流れていった人が多少居たのではとのこと。また2014年にテニミュ2ndも完結。その影響もあったのかも。
一方で、2014年に一般社団法人日本2.5次元ミュージカル協会が設立されます。
一般社団法人日本2.5次元ミュージカル協会
株式会社ネルケプランニング、株式会社マーベラス、ホリプロ、株式会社ぴえろなど4社が集まり、設立されました。その後、協会へ加盟する団体も増え、ホリプロ、東宝、松竹なども2.5次元へ参入していきます。
・2015年以降
2015年には渋谷に2.5次元ミュージカル専用劇場「アイア」獲得
2.5次元ミュージカル専用劇場 「 アイア 2.5 シアター トーキョー 」
松竹のスーパー歌舞伎が漫画「ワンピース」を題材にした新作演劇を行い、2017年に再演。
スーパー歌舞伎II(セカンド)ワンピース
2017年には「王家の紋章」が帝国劇場で公演。
ホリプロも2015年に「デスノート」を豪華キャストで舞台化。ジャンプ作品の2.5次元ミュージカル「NARUTO」はアジア圏で海外公演、「ハイキュー!」は映像技術と演劇を組み合わせた、ハイパープロジェクション演劇として展開、2.5次元ミュージカルはハイテクを駆使した様々な進化と世界への広がりを見せていました。
【エンタステージ2015総まとめ】2.5次元演劇、2015年の進化をふり返る!
僕はスーパー歌舞伎がワンピースとコラボしているのを知って驚きましたし、帝国劇場でやっている王家の紋章も、漫画原作であることは知らなかったです。
2017年には、動員数、市場規模ともに過去最高を記録。
2018年には「刀剣乱舞」「セーラームーン」などがフランス、パリで公演決定。2.5次元ミュージカルが海外に文化として認められつつあります。
2.5次元ミュージカルがジャポニスム2018の公式演目となり初のパリ公演決定!
いまや、2.5次元ミュージカルは、一つの文化として認められるところまで来ているのかもしれません。
2.観劇層について
・2.5次元ミュージカルの年代と性別
2.5次元ミュージカルを支えている層を調べてみました。
総務省統計局のデータから2011年と2016年の演劇鑑賞を見てみると、2.5次元ミュージカル市場の拡大と共に、15~29歳の女性の層が顕著に増えています。おそらく、メインの観劇層はこのあたりではないかな。
ターゲット層を男性じゃなく、女性に絞ったのも理由がありました。
男子向けコンテンツは動員の伸びが遅いが、一度火がつけばかなりロイヤリティが高い顧客となることが判る。一方、女性向けコンテンツは事前の情報リーチに対して敏感さもあるのだろうが、かなり順当に動員数が増えて行っている
動員数が少なく、火が付くまで待たなくてはいけない男性ファンよりも、情報に敏感で積極的、動員数増加が見込める女性ファンの獲得を狙って女性向け作品の2.5次元ミュージカル化が増えているのではないかなと思います。
また、日本のファンだけでなく、海外ファンの取り込みのため2.5次元ミュージカル協会は頑張ってました。
・海外の観劇層へアプローチ
2.5次元ミュージカル専用劇場アイアでは、多言語対応字幕メガネや海外から予約できる英語チケットなど充実しており、インバウンド対策もばっちりです。
元々いる海外ファン以外にも、中国や台湾の海外公演やライブビューイングを観劇、興味を持った海外の方が本場の日本で観劇しやすい環境をつくってます。海外の方から見て、「2.5次元ミュージカル本場の日本」というブランド作りまで行っているのです。すごすぎる。
3.ビジネスモデルの話。
・2.5次元ミュージカルの収益について
2.5次元ミュージカルは、当日のチケットだけでなく、DVDやライブビューイングな、物販など、上演以外でも売上があります。
アニメライブのビジネス構造について から引用
ちなみに舞台製作費の内訳ですがこのような形になっていました(めちゃ細かいので注意)
あくまで資料ですが、入場者数が5,496人で興行粗利3,146,289円
その中の約3割である1,800人がDVDを買うとDVD粗利が4,999,250円
物販も含めての合計粗利が9,035,076円となります。
舞台、DVD、グッズの売り上げ合計が49,132,502円なので
おおよそ粗利率が18.3%です。
※あくまで一例です。
興行だけで終わらず、DVDや物販でも収益を上げるのは2.5次元ミュージカルならではかなと。
舞台DVDを買う心理の一例として
・舞台上では目が足りないので保存用
・特典映像や思い出用
・他の人に「あの舞台良かったから見て!!」と布教用
などなど、様々な購入理由があります。
また、マーベラスのページを見てみると、舞台DVDだけでなく番組配信、グッズ、ショップとのコラボなど、1作品で舞台以外にも様々な部分で展開ができているんですよね。
もちろん、売れたビッグタイトルだからコラボしたというのはあると思いますが、舞台だけで作品を終わらせず、多方向展開するの事で露出が増えるのはとても良いと思います。露出が増えれば知られていき、入り口も増えるわけだし。
・赤字公演が日数の増加とともに黒字化
同一タイトルの「初演」→「再演」→「続編」を、約1年間の計画の中で実演すると「初演」
では赤字であったものが、「続編」時には黒字化していることにも気づかされる。これは興行の度に顧客数、及びリピート率が増加していると言う事である。このことから言えるのは、興行を予算化するのではなく、3興行分を予算化、プロジェクトとすることの方が、1興行毎の動員に左右されず、落ち着いたマーケティングと作品作りができるだろうと言う事だ。
上記の忍たまのミュージカルですが、初演から5の再演まで大体4年半です。
公演していく中で内容を変え、試行錯誤し、1.5倍近く公演人数を増やしています。
再演や長期計画も見越した2.5次元ミュージカルって綿密に計算されて作られているなと感じました。黒字にもっていくならどうすればいいかと考えてるし。ただ、この「黒字になるまでを見越して、長期スパンでやっていく方法」は資本力がいる話で、簡単にできることではないと感じました。
4.まとめ
色々と調べていくと、2.5次元ミュージカルの業界はかなり計算されていました。動員数を順調に増やすため、若い女性にターゲットを絞った原作、最初は赤字でも、最終的には黒字にするため、長いスパンでの改善しながらの公演戦略、舞台だけで完結させず、DVDや物販やメディアミックスなどの多方向展開。
さらに海外展開を見越して、言語のハードルを限りなく低くする取り組み。
一過性のブームではなく、緻密に計算して色々行ってきた結果が現在の大きなムーブメントになったことがわかりました。
また、2.5次元ミュージカルの大きな魅力について、2.5次元ミュージカル協会の松田代表理事が語っていました。
「2.5次元ミュージカル」の魅力に迫る 業界をけん引するプロデューサー・松田誠
2.5次元ミュージカルが世界で勝負できる理由とは?松田誠が語る
僕がいつもまずこだわるのは役者を使ったチラシなどのビジュアルです。原作ファンが、「自分の大切な漫画を舞台・ミュージカルにするのはやめて」って思うのは当然の心理。だからこそ、僕らがビジュアルを出したときに、その世界観がきちんと再現されていると思ってもらいたいんです。
全ての2.5次元ミュージカルがそうであるわけではないですけど、成長を楽しむというのが特徴の1つではあると思います。だから『NARUTO-ナルト-』や『テニスの王子様』のような成長物語の漫画が原作になっている。リピーターが多いのも、若い俳優が変化する姿を見続けたいからだと思います。
実は僕も刀ミュ(ミュージカル刀剣乱舞)を観に、劇場「アイア」に行ってたので、あの熱気や盛り上がり方を知っています。
原作の世界観を維持できるように丁寧な作りこみ、「成長」というテーマを持った原作と成長する俳優の姿が作品とマッチする。生ものである舞台だからこそ成立する仕組みを、そこまで計算して行っているのか!と驚きました。もちろん簡単にできないと思います。だから何度でも見たくなり、応援したくなるのかなと思いました。
シナリオクラブでの大舞台公演の時、同じような気持ちが湧いたことがあります。
練習で「大丈夫かな」と心配になった人たちが、練習を重ねて上手になっていき、舞台上で堂々と演技している姿を見て感動することがありました。
それをしっかりと形にして届けているから、2.5次元ミュージカルは多くの人に人気があるのだと実感しました。
そして、2.5次元ミュージカルの手法を真似するのはなかなか難しいけども、今の演劇界の何かの役に立てばいいなと思いつつ、今回の調査を終えたいと思います。