【実録】ド素人が気楽に舞台照明を引き受けたら、地獄を見て、プロの偉大さを痛感した話

スタッフの竹森です!
以前から、シナリオクラブの大舞台で撮影担当をやっています。かれこれ4年ほど大舞台の撮影担当だったんですが、最近「自分、機械に詳しいし、撮影以外でも何かレベルアップしたい」と思って、次なるステップアップの意味を込めて、生まれて初めて「舞台照明」というものをやりました。正直、めちゃくちゃ大変でした。
何故挑戦しようと思ったのか、お金払ってプロに頼むにはわけがある!!
では、なぜド素人の僕が、照明をやることになったのか、当時の僕を再現しながらレポ形式でお届けします。

登場人物

シナリオクラブ チーフメンター 清家栄一


蜷川幸雄氏と40年以上一緒に仕事をしていた超ベテラン俳優。演出未経験なのに、「大舞台の演出をやってくれ」という無茶ぶりを引き受けてくれたいい人。今では演出レベルはかなりのものになっている。

シナリオクラブ 運営マネージャー 青柳暁子


元劇団員で、照明、音響を多少やったことがある。劇団について詳しい。シナリオクラブの舞台では裏方担当。

シナリオクラブ 企画担当 竹森裕哉


演劇に対してド素人。大舞台ではカメラ撮影担当。なんでもやってみてから考えるタイプ

プロの照明さん

いつもシナリオクラブの大舞台を手伝ってくれるプロの方。今回は照明をやってみたいという要望を叶えてくれた。

2017年11月某日

シナリオクラブのミニ舞台の公演が決定。しかし「どこでやるか」で打合せをしていた。


今度の舞台、場所をどこでにしようかという話でなんですが、


いまのところ、
1.シナリオクラブの教室内でやる
2.近場で舞台を借りる
3.竹森くんが探してきたここでやる
この3つですね。


そろそろ新天地で行いたいというのもあるので、1つ目は避けたいですね。2つ目も、近隣はダンス教室くらいの場所しかなくていいところがなかったです。本格的に行うなら3番でしょう。(僕が探してきたし・・・)
新しい場所でやることで、色々なスキルが積めると思います!!


でも3番目の小劇場だと、照明と音響のスタッフが必須ですよ?


自分たちが経験値積めば、後で色々できます!もちろん、一部プロの手が必要ですが、とりあえずやってみましょうよ!!(まあ僕が探してきたし・・・)

大丈夫か?という心配をされる僕


うーん、素人が照明や音響をこなすには中々難しいと思うけど、演出や照明を単純にして・・・うーん(本当に大丈夫だろうか?)


照明を吊ったり(セットのこと)音響の機械のセッティングは流石にわからないからプロにお願いしましょう。当日の機械のコントロールだけならなんとかできると思いますが・・・


セッティングさえできてしまえばあとはなんとかなります!シナリオクラブでの照明もやってきましたから(あのパチパチするやつだな)

「本当にわかってるんだろうか」と真顔で心配される僕

うーん、そこまで言うなら検討してみようか。ただ照明を上から吊り下げたり、電源を配電したり、照明で演出を作ったりするのはプロにお願いしよう。危険だからね。
あくまでも演出の操作を中心に行ってもらう。まあシナリオクラブで稽古中、照明の練習するから、それがうまくいかなかったらまた考えましょう。


まあ、操作だけならなんとかできる気がしてきました・・・


大丈夫!!なんとかなりますよ!!

そんなわけで、「とりあえずやってみたら何とかなるんじゃないか精神」で(強引に)、本場の劇場の舞台照明担当になったのです。明らかに選択肢を間違えました。ちなみにシナリオクラブの照明はこんな感じ。ほぼ普通のスイッチです。

さらに演出してくれた清家さんが難しい演出をつくらず、「つける」「消す」というシンプルなものを多く作ってくれたおかげで気づかなかったのです。照明の仕事の怖さを。

2018年1月某日

さすがにぶっつけ本番はとんでもないとのことで、合同練習の時に一度プロの方と打ち合わせをします。この打ち合わせが無かったら間違いなく即死だった。


よろしくお願いします!


よろしく、ところで、照明作ってきたよ。こんな感じかな


ありがとうございます!!(キュー?なんだろうこれは。全然わからん。)


そういえば、未経験って言ってたね。照明というのは舞台の大事な演出だから、どこに光を当てるか、何色と何色を混ぜて照明を作るか、どのタイミングやきっかけで照明を消すか、何秒で消すか、センスと経験と技術が問われるんだ。
それをノートに書いて、キュー1、キュー2(スイッチのこと)と割り振ったのがこの台本のノート。こちらで明かりをセッティングして割り振っておいたので、合同練習を見ながらタイミングを考えるよ。当日は我々が照明をセッティングするから、ボタンを一個切り替えれば照明の切り替えができるように簡略化するよ。


あ、ありがとうございます(思ったより難易度が高いかもしれないぞ)


大丈夫。なんとかなる・・・と思う。まあ本番はここのパチパチって消すやつより簡単だと思うよ。手元で操作できるし、自分のコントロールでできるし。ここのパチパチのほうが点灯のタイムラグがあるからね


そうなんですね!!(まあ、なんとかなるだろう)

全体練習の時にうっすらと、照明の大変さ、ヤバさ、責任感の重大さに気づく僕。ただ、まだ楽天的です。地獄はここからだ!

2月某日 搬入の日


というわけで照明整えたからあとは点灯させるだけだよ。


ありがとうございます。どれを操作すれば?


これだよ


!?


ちなみに本番前にこんな事言うのもなんだけど、ほぼ素人が調光操作卓を使って実際の舞台を演出するのって車の免許取りたての人が首都高を120キロで走破するくらいの難しさだと思う。なるべく簡単にキュー(スイッチ)30個程度に割り振っておいたから。明かりの転換のときはキューを自分のタイミングで手動操作して頑張ってみて。まあ、一応控えてはいるけど。


は、はい・・・


まあ失敗しても命は取られないと思うけど、舞台に出る人は少なからず命をかけているので、そこは真剣にね。


わかりました。(失敗したら死ぬ覚悟でやろう・・・)

ここでようやく照明がプロとして成り立っている理由気付きます。プロの照明の仕事をものすごく簡略化しても
1.照明の吊り下げ(感電の危険もある)
2.照明のセッティング(場面によって色、配置、明度などを演出と共に考慮して配置と調整、そして調光卓へプログラミングなど)
3.本番当日、演出の要望に沿って切り替え(ノーミスは大前提。その上で舞台を見ながら少しずつ演出の時間を変える)
4.電気がつかないなどのイレギュラーへの対応

これだけの仕事がありますし、実際もっと多いです。。
しかも3が超重要。どんなに俳優の演技がうまくいってもミスったら終わります。責任重大!!
隣同士のキューは全く別のスイッチなので、うっかり一つ隣を触ったりしたら、煌々と照らされる夕暮れのシーンでさわやかな青空スポットがでちゃうかもしれないのです。みんな命がけで舞台に立つわけで、そこをサポートするなら同じように命をかけねばならんのです。

そしてリハーサルがスタート

実際の舞台を目の前にして行う操作は異次元の難しさでした。

1.舞台も手元も台本も全部見る必要がある。

役者を見ていないと照明のタイミングが取れないので、役者をしっかり見る必要がある。でも手元の調光操作卓は、ほぼ同じスイッチが並んでいる。うかつに見逃すとどのスイッチを押していいかわからなくなる。そしてどこまで進んだかの台本も見る。つまり、舞台も手元も全部注意を払っていないいけない。しかも手元のキュー48個あります。

2.明暗の時間調整が超重要

操作卓は明暗の時間が手元で自由に動かせるので責任が重い。舞台では0.1秒の遅れなどもはっきりわかってしまう。

3.ミスは許されない

舞台役者がどんなにいい演技してても、オンとオフのスイッチミスを一発でもやらかしたら終了する・・・! 本番はノーミスが大前提。

4.様子を見ながらのアドリブ要素が必要

ただスイッチを切り替えればいいわけではなく、照明も演出なので、場面を見ながら速度の微妙な調整がいる。

5.本番環境での練習期間が少ない

調光操作卓使っての練習期間が実質一日。しかもリハーサルの回数が取れないので実質1~2回。こればっかりは仕方なかった。

正直、何度心臓が爆発するかと思いました。ノーミス大前提ができて当たり前の世界です。
「え、えらいこっちゃ・・・」と頭を抱えまくりますが、もう引き返せない。ミスしたら本当に腹を切る覚悟で行くしかねえ!!とリハーサルをこなします。

ちなみにこの時の舞台、客入りでノリゲネ、つまり当日に簡単なリハーサルを行ったあとにそのまま観客を入れての通しリハーサルスタート。実質本番みたいなものでした。

この日、朝からレッドブル3杯をガブガブ飲んで、プレッシャーとレッドブルで物理的にも心臓が破裂しそうになりながら照明を奇跡的にほぼノーミスで入れてました。頑張った・・・

ちなみに本番は次の日なので、前日が終わった段階では全く気が休まらなかった。

そして迎えた本番。ぶっちゃけほとんど何も覚えてない。
寝ていたわけでもなく失敗したわけでもなく、気づいたら最後の拍手が聞こえてきて、「あ、終わったんだ」と気づいた感じでした。
おそらく極限までの緊張と集中力のため、ほとんど覚えておらず、ノーミスで終えたと思います。怒られなかったし
終えてからプロの方と話す機会がありました。

よくやったじゃん!!
ノーミスだったし、初めてにしては上出来じゃん!!


う・・うっ?あっ、僕はやり遂げたんですね!!プロに認められるくらいまで!!


いや、そこまでではない。上出来だけど、若い衆があの出来だったら叱る。


あ、そっすよね。

実際、スイッチの切り替えに目立つミスは一切なかったものの、暗転のタイミングが速かったり、切り替えの間が長すぎたりと、プロから見ると「チッ!」って舌打ちしたくなるような出来だったそうです。
というわけで、私に照明の眠れる才能があるわけでもなく、凡人でした。
ただ今回の教訓で得たものが

1.プロがいる世界は必ずプロが必要な理由がある。
2.プロの世界を甘く見るともれなく死ぬ
3.「やってみたら案外できた」みたいな眠れる才能はあんまりない

ということでした。
特に1番目。難しい仕事だからお金を払ってでも成り立つということでした。「自分達でやればできるんじゃない?」と、甘くみたら、結果的に任せたほうが安く済んだ。という話
2番目でプロすごいと思ったのは、この心臓が何度も破裂しそうなことを仕事にしていることです。
一回でも失敗したら今後の人生のトラウマになりそうなのに、「仕事は楽しいねぇ」と言われたときは「すごい!!」と思いました。
確かに達成感はあったけど、プレッシャーがでかすぎる。今後はプロに任せられるところは全部プロにお任せしたい!二日くらいご飯が喉を通らなかったから!!

でも挑戦自体はものすごく勉強になりました!!
なぜなら挑戦するまで、照明さんがこんなきっついとは全く思わなかったし、挑戦して初めて、「ああ、こんなに大変なんだ、本当にいつもいつもありがとうございます!!頭が下がります!!」って謙虚な気持ちにもなるし、わかることがいっぱいあるからね!!

職人さんたちが裏で活躍して初めて舞台というものが成り立っているとひしひしと実感したので、今後舞台を観に行った時、シナリオクラブの大舞台を見るとき、今のは照明さん職人技だな!!とか思いながら観劇したいと思います!

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