スタッフの竹森です。
最近「アクタージュ」(演劇漫画)をオススメするお兄さんになっています。吉祥寺の本屋の単行本を買い漁って、一時的に売り切れにしてしまってごめんなさい。前回のエントリーが色々な方に読まれて、めちゃ嬉しい!!
アクタージュですが、現在3巻まで出ていて、序盤、映画撮影編、舞台俳優編(現在進行形)になっています。
少年ジャンプで連載が始まった時は「演劇を題材にした漫画が出てきた!!やった!!」と喜んでたんですが、映画撮影編の途中で掲載順位が下がってしまい、(掲載順位が下がると打切りになってしまうという噂がある)はがきを送りながら「打ち切りにならないでくれー」と願ってました。最近は1巻2巻の増刷など、人気がじわじわと出てきたんじゃないかなと思っています。舞台俳優編も面白いしね。
<目次>
アクタージュの面白さ
メンター紹介
解説
・第1話の「さりげない演技」のすごさって人に伝わるのか?
・パントマイムでリアルな野犬を表現できるのか?
・エキストラ修行であんなことしていいの?
・映画制作オーディションで結構やらかしてるけど。
・作中最強クラスの演技力を持つ「千世子」はどのくらいすごいのか?
・「俯瞰する技術」とは一体どういうこと?
・映画合宿で共演者との仲が悪くならないの?
・撮影スケジュールってあんなにタイトなの?
・映画編ラストの千世子の心情
まとめ
アクタージュの面白さ
序盤~映画撮影編って単行本で一気読みすると面白いんですよ。ただ、演劇を題材にした漫画なので、興味がないと分かりにくい、想像しにくいところもあります。そのためいつか、ちゃんと掘り下げることができれば。と思っていたのですが、早く次のブログを書いてほしいという声をいただきました。
シナリオクラブには、長年舞台を中心に活躍してきた俳優や映像を経験されていた俳優もいるので、今回は「アクタージュ」という漫画を掘り下げて、聞こうと思っています。ちなみにメンターさんに読んでもらうために何冊か買ってたら、普通に売り切れちゃったので、吉祥寺あたりの本屋から単行本が消えてたら僕のせいです。すいません。
今回のメンター紹介
角間進
劇団青俳出身。放浪記で森光子さんと10年以上共演。
かつての名優、志村喬の付き人を務めていて、現在は舞台を中心に活躍中。
高瀬哲朗
「東大より入るのが難しい」と言われた文学座のベテラン俳優。
現在は舞台をメインに活躍中。
テレビにも出たり、最近ではBENIの「夏の思い出」のPVに出演。
清家栄一
蜷川幸雄氏の舞台に、40年以上出演していて、
舞台俳優として活躍してきたベテラン俳優。
羽子田洋子
蜷川幸雄氏の元、何十年と舞台に立ち続けた女優。
藤原竜也氏のオーディションの相手役を務める。
皆さん、忙しいのにアクタージュをしっかり読んでいただき、ありがとうございます。
今の若い子たちはこういうのを読むんですね。僕、漫画なんて全然読まなかったから新鮮でした。あと1話の、ビデオを見てるところ。ここにでてくる作品は、どれも渋いよね。
僕は、手塚治虫の「七色いんこ」という漫画を思い出しました。演劇の話だからね。若い人がこういうのをきっかけに演劇に興味を持ってくれたらいいですね
結構面白かったです! でも、出てくる人がみんな、言われたら何でもサクサクできるようになってくるんですよね。「俯瞰の技術」と言われていきなりできたり・・・。普通の人はそうはいかなくて、自分の体の不自由さとの葛藤があるんですよね。「想像している動きができない!!理想の動きができない!!」とか
そういう現実の泥臭い部分、不器用な部分って、魅力的でもあるんですよね。ただ漫画だと描写が難しいですよね。
今回は、「まあ漫画だし」というのは置いといて、ガチの解説でお願いします。
解説
・第1話の「さりげない演技」のすごさって人に伝わるのか?
第1話のはじまりのオーディションのシーン。主人公の「夜凪景」が、ただ立ってるだけで「悲しみ」を表現して、審査員に驚かれるシーンがあります。あれって見てるだけでわかるもんなんですか?
これは演技力というより存在感の問題かもしれません。オーラみたいな存在感がある人って時々いますよ。
存在感って、演技とは別の話になるかもしれませんが、見た瞬間に、目が離せなくなっちゃうような人ですね。西田敏行さんなんか、初めて見た瞬間に「誰だ!?この人は!?」みたいな存在感がありましたよ。演技が上手い、下手とはまた違う感じなんです。
僕も綿引勝彦さんと初めてあった時、「この人は、何者!?」という感じになりました。
逆にいうと、存在感が無いのに有名になった人って僕は知らないです。存在感がある人が存在感をなくすことはあります。でも存在感があるから、何をやっても絵になる、サマになる。面白い例でいうと、絶対に忘れちゃいけないセリフを忘れたりした時、それさえも絶妙な間にしたり、笑いに変えたりと味方にしちゃうんですよ。そういう意味で「ずるい」ですねえ。うらやましい(笑)
・パントマイムでリアルな野犬を表現できるのか?
第1話後半のオーディションで「一匹の野犬をパントマイムで表現せよ」って無理を言われたところ。その演技で、見ている人全員が、本当に野犬がいるように感じたのですが、本当に演技で実物が存在するように見せられるんですか?
「想像をあそこまでリアルにみせる芝居」は、僕は見たことないですね。ただ、演じる側の人間が観客に「この人には見えているんだ、感じているんだ」と伝える芝居はありますよ。目で追ったり、怖がったりして、「そこにいる」って伝えるんですよ。
ああいうパントマイム形式のオーディション、僕、やったことがありますよ。
実は、スピルバーグ監督の作品で、三船敏郎の部下の役、僕は最後の4人まで残ったんですよ。この漫画みたいな展開で。そこで最後のテストがパントマイム劇だったんですよ。とにかく難しかった!!同じようにお題を出されて、一人ずつ表現するんだけど、全然伝わってる気がしない!!難しい!!もうすごい難しかったよ!!審査してくれた人は、「私は今すぐ合格を出したいくらいだわ!!でも監督にお伺いたてないとね」っていうんですよ。で、「やったー!」と思ってると、落ちた・・。
海外の人って褒めるの上手ですからね。でもスピルバーグ監督の作品なら、それこそ何千、何万の応募の中で、最後の4人までいったのはすごいですよ。
・エキストラ修行であんなことしていいの?
3話で主人公が監督に「修行」と言われて、エキストラとして映画撮影に参加したシーンの話です。最初は体が勝手に動いて、乱入や飛び蹴りしたり、さんざんかき回したりするんです。でも、最後は、物凄い演技力を発揮するんですが、あんなむちゃくちゃしたらどうなるんですか?またエキストラでも演技がうまかったら「あいつ見どころあるな!」って言われたりするんですか?
時折、エキストラの演技を面白がる監督も中にはいますよ。でもフィクションで黄金パターンの「あのエキストラは誰だ!?」っていう展開は、いまだかつて見たことがないね。エキストラから出世って、やっぱりロマンだから、実際はすごく難しいんじゃないかな。
めちゃめちゃ存在感があっていい演技したとしても、やっぱり「エキストラは、エキストラ」としかみなされないかな。
エキストラって目立っちゃうと「演技がうるさい!邪魔するな!」ってつまみ出されるんですよ。主役がいるのに、観客の目線がエキストラに行っちゃったら失敗ですからね。実際、撮影の現場って、大きなプロジェクトほど、エキストラはすぐ変えられたりしますよ。「あの人変えて」とか言われて。一方で規模の小さな映画撮影だとエキストラまでちゃんと名前覚えられたりしてますね。
「大部屋俳優」っていう、いわゆるちょっとした端役があるんですが、そこから出世する人は、稀にいます。
エキストラと大部屋俳優って、ものすごい大きな差があるので、主人公は大部屋俳優みたいなものかもしれませんね。
飯田蝶子さんみたいに、大部屋俳優から出世した方はいますね。
あと、場を引っ掻き回した時の主人公の飛び蹴りですが、ああいう場面は見たことはないけど、絶対マネしちゃだめですよ(笑)
主人公は「体が勝手に動いて」って言うんですが、実は彼女みたいに現実と芝居の境界があいまいで、体が勝手に動く俳優って時々いるんですよ。本能的で動く俳優。ただ、使う側が起用するのを嫌がるかな。
何故かというと、自分を操れないんですよ。身体が勝手に動くから、イレギュラーな事態が起きやすい。例えば飛び蹴りのシーンで、もし間違って刀が刺さったりしたら大事故です。それは演じているというより、自分が世界に入っているだけにすぎないかな。だからその後の「自分を自分でコントロールする術を身に着ける」っていう主人公の変化は、ものすごく重要な成長ですね。
・映画制作オーディションで結構やらかしてるけど。
大作映画の最終オーディションで、決められた設定の中でみんなでエチュードを作るシーンがあるんです。みんなで協力して演じる中、主人公だけが、共演者の演技を全部無視して振り回します。実際は、あの共演方法どうなんですか?
オーディションは目立ってなんぼのところもあるんで、彼女みたいな方法はアリになることがありますよ。
監督が「君面白いね」って採用になることはあります。でも逆にいうと、オーディションのみに使える手法で、あの暴走状態を実際の作品にはもっていけないです。作品内で暴走してしまうと、演劇として成り立たなくて、共演者から相手にされなくなるんです。
映像の世界なら好き勝手に動いても、もしかしたらシーンだけカットして、なんとかなるかもしれません。でも舞台の世界だと、暴走する俳優ってかなり厳しいですね。舞台上だと、段取りがきっちり決まっている。「ここまで歩いて、ここで裏方から小道具をもらって」という段取りを守らないと芝居が成り立たないこともあるし、下手したら事故につながるんです。暴走型の彼女が今後の展開でどう変わるのか気になりますね。
・作中最強クラスの演技力を持つ「千世子」はどのくらいすごいのか?
映画編から出てきた、若手トップの女優「百城千世子」自分を客観視する技術がスバ抜けて高いという設定なんですが、現実だとどんな感じなんですか?
客観的にみられることだけを突き詰めて、役を掘り下げない。いわゆる演技の形にものすごく特化した芝居ですね。
現実でそんな役者を見ると「ものすごくうまいなぁ」と感じます。でも役者として対峙すると、感情が入ってないのに気づきます。映像の世界だと、観客がそれに気づくかどうかはわからないですね。形に特化した芝居だと、狂言や能、歌舞伎といったものが近いかな。感情を動作として表現していますから。
映像という、一つ隔てた世界だから成り立つ能力かもしれません。舞台だと観客は意外と「感情が入ってない」ってわかる時があるんですよ。例えば、涙を流すのって、意外と簡単にできちゃうんです。どう見られているかを突き詰めたというのであれば、歌舞伎の役者さんが近いかも。「どこに立つのがいいのか、どこにが最もカッコよく見られる位置なのか」を極限まで突き詰めています。
天井から俯瞰して、どう見られるかを「鷹の目」と言うことがあります。これを研究している人は俳優でもいるんじゃないかなと思いますよ。ただ、「俺やっているよ」ってあまり言わないですよね。ちなみに、舞台の手法を映像に持ってきて、オーバーアクションすぎて怒られたことがあります。カメラフレーム内で演技する予定だったのに全身使ってフレームアウトしちゃいましたからね(笑)。
志村喬さんの付き人やってた時にね、「映像は目が大切なんだ。いいか、目だぞ」と教わりました。
この彼女が映画の長回しシーンを淡々とこなす場面、漫画とはいえ、すごいよね。ああいうワンシーン、ワンカットって黒澤監督の作品で多いんだけど、6分くらいやっても、最後のところでトチったら取り直しなんですよ。そのプレッシャーがすごいって言ってました。
映画って、2時間に一本の電車が交差するシーンまで待つこともあるんです。来た瞬間にカメラを回して撮るんですが、チャンスがそこだけなんで、プレッシャーで大変だって聞きました。
・「俯瞰する技術」とは一体どういうこと?
2巻で「役者には俯瞰する目がついている」っていってるんですけど、どういうことです?
観客からどう見られているかを考えながら、芝居をコントロールするのが「俯瞰する目」ですね。
「どう見られているか」を客観視する能力のことです。これが無いと、作品の世界に入りすぎて自分の動きをコントロールできないから、予測不能なトラブルにつながるんです。主人公の「感情だけで演じる芝居」って、観客から何やってるかわからないことがあるんですよ。
本当に怒りの感情が入って臨場感がでても、例えば声を出す技術がなかったら「○×※%」みたいに何言ってるのかわからないのです。
感情の俯瞰もあります。例えば怒っているときに、別の冷静な自分が「ああこういうことで怒っているんだな」というものすごく客観的な目線。これも俯瞰の技術ですね。
ただ、経験値を積んで獲得するものなので、言われて「分かりました」ってできないです。漫画では、主人公は「俯瞰する目」を教えてもらったら、もう次の映画撮影のシーン使いこなしてます。ああやって動くのって実際は難しいです。「そう動きたい」と思っても体が思った通りに動かないというのがありますから。
・映画合宿で共演者との仲が悪くならないの?
主人公の夜凪景が、映画撮影の現場で演技が暴走して台本を無視してるんですが、実際の現場でそれやるとどうなるんです?
暴走する演技をガンガンやられたら、普通は反感買いますね。舞台だと相手にされなくなると思います。でも、周りが主人公のことを気にかけてくれているので、この現場はものすごくやさしい人たちが集まっているのかな。
主人公が台本無視して、川に飛び込んだりしてるけど、大丈夫なんですかね。監督が結構「OK」出したりしてますが。
監督によりますが、時々ありますよ。
「エデンの東」という映画で、台本では父に叱られて出ていくシーンなのに、息子役のジェームズディーンが慟哭しながらお父さんに抱きついちゃうんですよ。お父さん役のレイモンド・マッセイも本当にびっくりしちゃってて、これいいなってことでそのままOK出たんですよ。
監督が面白がってOK出すことはありますよ。アドリブを楽しむ俳優もいますからね。もちろん一切アドリブがダメな俳優や監督もいるのでケースバイケースですね。
あと監督が無茶ぶりを求めるというのは、昔ありました。
監督って簡単に「よし転んでみよう」「こっから落っこちて」「さあ飛び込んでみよう」って言うのよね。
もちろん今は安全管理されてると思うけどね。昔はおおらかだったから。雪が降った次の日に「じゃあ、話の流れで飛び込んどこうか」って言われちゃってさ。これ本当に大丈夫かなと思ってたら、主演の方が、「こういう池って、ちゃんと見たほうがいいよね。万が一危ないものが入ってたら事故につながるし、僕からも言っておくよ」と言ってくれて。有難いなぁと思ってたんです。
そしたらスタッフの人が棒もってきて池を適当にかき回して「はいはい!おっけー。飛んでみましょう!」っていうのよ。いやいや、全然確認してないでしょうって。昔っておおらかな時代だったよね。
むちゃなオーダーがあっても、やっぱり映像に出て目立ちたいじゃないですか。だからすごい頑張るんですけど、体を張ったシーンなのに普通にカットされてたってあるからね。
あと、映画ってカットできるから、色んなシーンを撮ってた方が得なんですよ。あとから、フィルムをつなぐこともできますからね。だからせっかく飛び込んだのに、カットされたことが普通にある。
他には監督が偉い人にやる気を見せる必要があるから、多めに撮影することもあるんだよね。
「仕事をしてますアピール」ってこういうところでも重要なんです。
ただ、主演の人はスタント使いますね。怪我したら一大事です。そのためにスタントマンがいるわけだから。僕みたいな下っ端には、ちょっと無理なオーダーが来ますけどね(笑)
・撮影スケジュールってあんなにタイトなの?
映画撮影編の終盤、台風が来てシーンが撮れるか撮れないか揉めたりしてますよね。シーンが撮れなかったり、日程が延びたりことあるんですか?
雨でも強硬してなんとかするっていうのはありますよ。一本でギャラいくらの世界だし。スケジュール後半に他の仕事が入ってたりすると、大変なことになっちゃうから、基本は撮影日程を延ばさないと思う。でも黒澤明監督のところはよく日程が延びてましたね。
志村さんの付き人時代、黒澤明監督の撮影があったんです。太陽が差すシーンを撮るために、みんな支度してメイクして、一日中スタンバイして、ずーっと待ってたことがあるんですが、
一日たって太陽が出てこない。
二日たっても出てこない。
ずーっと待っても、とうとう陽が差さなかった。その時「いやぁ、明日もこの感じかなぁ・・・」と俳優さんが言ってましたね。結局別のシーンに差し替えたのかな?今だとそんな撮影は難しいし、CG使ったりすると思いますよ。
・映画編ラストの千世子の心情
映画撮影編のラストシーン撮影の時、主演の千世子が、初めて顔をぐしゃぐしゃにした演技をしたシーンがあるんですが。
彼女は確か、感情を一切掘り下げず、どう見られてるかに特化した芝居だよね。映画の最終場面の撮影シーンで顔がぐしゃぐしゃになったのは、今まで技術のみで戦ってきた彼女が、「初めて、どうみられるかじゃなく、自分の中から湧き上がってきた感情を表に出した」シーンだと思います。もし現実で考えると、すごいことなんですよ。物心ついたころから「どう見られるか」を突き詰めていると、現実ならその価値観ってそう簡単に変わらないと思います。なので彼女の心境が変化した瞬間かなと。
主人公も「どう見られるか」という技術を身につけて成長したし、その彼女も「感情でどう演じるか」で成長したんじゃないかな。でも、役を演じるということは、一人の人間を演じることです。「感情」と「見え方」だけでやるのは難しいなぁ・・・。
演劇の世界って物凄く面白くて深い世界なんですよ。舞台には魔物が棲んでるって言いますが、ハマったら抜け出せない世界ですよ。
まあ我々、何十年と演劇をやってきていますが、それでも飽きない。それが演劇の世界の深さと楽しさですからね。
皆さん、ありがとうございます。次、コミックスで舞台俳優編が出たら、また色々お話を聞かせてください。
まとめ
今回、解説してもらうにあたって、知りたい部分に付箋を貼りまくったら単行本がとんでもないことになりました。
プロの俳優の皆さんに、アクタージュを解説してもらったんですが、色々な裏話がめちゃめちゃ出てくる出てくる!!何十年と演劇をやっているから、経験値が半端ないんですよね。ちなみに話の中で、結構「これ書けないネタや・・・」みたいなもの出てきました。舞台、劇場、映画など、何十年もやってきた経験からくる裏話。もし聞きたい方がいたら、気軽に来てください!
そして次は舞台俳優編が出たら解説してもらおう!!
続きました!!