まず思ったことは、この作品は、蜷川さんの作品の中では、珍しく「家族で観られる」芝居だわ!でした。
いや、いつものような奇抜な演出や派手な装置は嫌いではない(むしろ私は大好物)なのです。
でも、それが両親と一緒に観られるか、っていうと、「うーん。この世界、わっかんないだろうなー」って思ってしまいます。
そこへいくと、この「ムサシ」は、対決構造がわかりやすいし、脇のキャラも個性的で面白いし、それぞれ見せ場があるし、両親が観てもたぶんわかる。さらにラストに向けて、そのキャラたちは、なぜそのキャラだったのか、ストーリーが展開していくにつれ、どんどん観客がその中に引き込まれていきます。
さすが!!大天才・井上ひさしさんっっっ!というしかありませんでした。
年表まで書いて、宮本武蔵や、謎の多い佐々木小次郎のことを徹底的に調べ上げています。
さらに当時の文化の香りを漂わせるためか、能や狂言、禅や茶道も、エッセンスとして取り入れられています。殺陣や能や狂言の指導もあったようで(狂言指導は野村萬斎さんとか!)、そこは抜かりなく武蔵と小次郎の世界へ連れていってくれます。海外からの公演オファーが多かったのも頷けます。
さて、今回は溝端さんが小次郎なわけですが、アタマに血がのぼってキーーーってなってる小次郎でさえ、もう美しいから許しちゃう!って感じです。お茶目な人間味がじわじわじわと出てくると、もう俄然、小次郎に感情移入しちゃいます。
対して、藤原竜也さんの武蔵は、ちょっと呆れてるっていうか、面倒くさいことに巻き込まれたくなくて傍観してるキャラですね。(まあ、ガンガン巻き込まれるんですけど。)武蔵の視点で描かれてますから、そうなっちゃいますよね。ちょっと何考えてるかわかんない??みたいな。相手の気持ちを逆なでして優位に立つ戦法をされる方ですかね。
武蔵と小次郎の対比から言って、力量のある役者さんが武蔵じゃないとバランス取れないと思うと、藤原竜也さん以外の武蔵って想像できない、って感じかな。小次郎以外のキャストも、とっても魅力的に輝いていました。
わたくし的武蔵の見せ場は、終盤、白石加代子さん演じる「まい」が、小次郎の実の母親だと言い出すところです。「相棒」の右京さんばりに、まいにトラップを仕掛け、見事に嘘を見破るとき、ニターーーっと悪い顔してたところです。
いちばん盛り上がってたのは、やっぱり5人6脚のシーン。
鋼太郎さんの体勢が大変なことになっちゃってて、観客大ウケ!で、この日は、ホントに腕のところから出血しちゃって、「痛ってー!」って言って竜也さんや溝端さんに「血、血ッ~~!」ってアピールして、2人とも、素っぽい苦笑いをする場面も。さすがにこれはアドリブ、ですよね?この2人をいじれるなんて、鋼太郎さんしかできませんもんね。それと、白石加代子さん(まい)の蛸踊りのシーンは、会場から拍手が起こってました。
鎌倉に実在する、宝蓮寺というお寺がこの芝居の舞台となっていますが、それを再現しつつ、スパーンと割ったような断面図のような舞台となっていました。
見どころとして書かないわけにはいかないのが、「竹」!竹林がめちゃくちゃ演技してる、っていう。笑
まさに、ざわざわしちゃってる! ざわざわざわざわ・・・
最初から最後まで、隙なく面白かったこのお芝居ですが、一つだけ残念だったのは、カーテンコールが2回で終わってしまったこと。あーん、もっと拍手したかった!