ひと言で言い表すと、「INNOVATION(革新的)」なだけあって、非常に難解な作品でした。普段、オペラなんて観たことないわたくしにとって、本当に衝撃的で斬新な舞台でしたー! カーテンコールでは「ブラボー! ブラボー!」って絶賛の嵐。ただ、わたくしには崇高すぎ・・・・。
まずこの劇場、東京文化会館 大ホールは、クラシック音楽の殿堂、オペラの聖地とも呼ばれ、座席は約2,300席、5階席まであります。初めてきましたが、歴史と伝統の重みを感じます。
開演すると、まず、総合プロデュースの西本智実さんと、中井美穂アナウンサーのスペシャルトークが始まりました。西本さんに中山さんがインタビューする形で、どのように新卒塔婆小町を創られたのか、見どころはどこか、などを解説してくれました。
最近では、演劇のアフタートークはよく見ますが、始まる前にやってくれるとは。「これはよほど革新的なんだ?」と思ったのですが、クラシックでは、よくあることなんですか?(教えてください・・)
確かに、小野小町は有名だけど、一般的には「卒塔婆小町」は能や演劇を知らない人にはちょっと馴染みがないと思います。まずはいろんな芸術を知っていないと、このオペラを十分楽しむことはできない、ということなのでしょう。(ということで、わたくしにとっては嬉しかったです)
ちなみに、西本智実さんを初めて生で拝見したのですが、スラっとして知的で優雅で風格があって、とってもカッコよかったです! たぶん半径3メートル以内で見たら、クラっとしたと思います。世界的指揮者であり、台本も書き、作曲もするなんて、多才すぎますー!
西本さんがおっしゃっていたのは、能の世界のように、「あの世とこの世、現在と過去、現実と夢まぼろし」、そういった境界のない世界を表現したかったのだそうです。
「ストゥーパ」という題名も、日本の文化にこだわって創ろうとしたわけではない、という表れのようです。言ってみれば「幽玄」の世界と、西本さんの融合というところでしょうか。
また、オペラ歌手たちが公家たちの役どころであったり、合唱は、ギリシャ悲劇のコロス、能の地謡を融合させたような役割を担うことを説明してくれました。今回は、和楽器は使わず、すべてオーケストラの西洋楽器で、すべての音(風の音や虫の声なども)を表現しているとのこと。さらに、狂乱の場面でダンサーがもう一人の小町を演じること、このオペラは5つの場面で構成されており(能の五番立の形式を採用)、小野小町の詠んだ歌がたくさん出てくること、などのことを教えてくれました。両袖には、字幕スーパーの画面があり、小町が詠んだ歌などが投影。
さて、舞台の上には、墓標を思わせる置石と、芍薬(シャクヤク)の花。両袖からスモークが焚かれ、だんだん幻想的な空間になっていきます。芍薬は、深草少将が小野小町に百夜通いをした時に、毎日通い路に植えていったとされる花。百本植えることができたら、契りを交わすとの約束だったが、深草少将は、あと一夜の九九夜目で、この世を去ってしまいます。
歌は「色は匂へど散りぬるを」のいろは歌、百人一首でも有名な「花の色は移りにけりないたずらに」の和歌、それらの歌をコーラスと音楽で奏でてのプロローグです。舞台中央に能面をつけた小町が舞い、青山達三さんが芍薬の花を捧げるシルエットが映されます。
オーケストラピットと舞台を、能の「橋掛り」と見立てていて、舞台に上がることで、「この世からあの世への橋を渡る」設定になっているそうです。中山優馬さん演じる僧が、客席から登場し、舞台へ上がると、この世とあの世の狭間に入り、見えないものが見えてくる・・・。
輪廻転生がテーマのこのお芝居、深草となった従僧の白熱の演技に、会場中が固唾を飲みます。二人の間で揺れ動く小町は、佐久間さんからダンサーになり、もう一人の小町として狂乱の舞を美しく艶めかしく舞う。中山さんも、ダンスとなるとさすが、キレッキレ!!芥川龍之介の「蜘蛛の糸」よろしく、天井から垂れている無数の糸に身体が絡められて、逃れようとしているようにも見え、わざわざ飛びこんでいっているようにも見え、僧はしばらく苦しみもがくのです。そして、悟りの世界から、一気に情念の世界へ!
眩い光に包まれた僧の魂は、解き放たれたのか、地獄に堕ちたのか、それとも――
本当に、不思議な世界でした。歴史の目撃者になった気分、と思えば、今のところはそれでよしとしよう。「ブラボー!」って声かけてた人、羨ましい。正直、何がブラボーだったのはよく分からなかった。いつか、この世界のことが、少しでも咀嚼できて、「ああ、あれはああいうことだったんだ、ああいうふうにスゴかったんだ」って思えればいいかな。