まず、感想から言いますと、ストーリーは最初ちょっと難解だったのですが、登場する愛くるしい人物たちを愛で、その演技を楽しむのには十分な舞台でした。文学座初演出の生田みゆきさんが、演技技巧者なベテラン俳優に対して、あんなこともこんなこともさせちゃえ、みたいなところが、ホント好きです。
文学座のアトリエと言えば、いつも実験的な試みがあり、自前の劇場だけあって、行くたびに舞台の形が違っていてすごく楽しい。今回は、中央に舞台があり、客席は両側から舞台を囲む対面形式になっていました。舞台の対角線上の空間に動画を流すパネルがあって、チラシデザインにも登場していた、ハト人間のアニメーションが流れていました。
3つの世界は、それぞれ1年、1日、1秒、という時間軸の中で存在しています。
だから、特別なセットが組まれているわけではなく、役者さんたちが白い枠や、白い布などの小道具を運び入れ、それで作家の家や、マンションの入口ドアだったり、海辺だったりを自由自在に表現していきます。時にはダンスなんかも踊ったり、ストップモーションになったり。
最初は本当に何が何だか、よくわからないのです。シーン、シーンは、切迫してたり、謎めいていたりして、面白いけど「この人たちは、何? 誰? この問答は何だ? 」てなる。そこに、不思議の国のアリスのうさぎのような、林田一高さん(編集者、医者、浮浪者)も神出鬼没に出てくる!
この一見ばらばらのジグゾーパズルのピースが、だんだん年老いた童話作家(外山誠二さん)の物語に集約されてくるんです。この童話作家は、どうやら認知症のようで、先も短いようなのです。おそらく、このぐちゃぐちゃなピースは、孤独と不安を否定したい、この作家の記憶であり、彼の書いた作品であり、あるいは願望――?
暗く重くなりそうなこの老いと介護のテーマを、軽妙に描ききって、あえて言葉で投げかけてないところがとても小気味よかった。外山さんの老いた童話作家像は、「老いも認知症もひっくるめての人間」というのをリアルとコミカルの上手なさじ加減で、素晴らしく演じてくれて、本当に愛くるしかったです。(キュンキュンちゃった!)そして、「老い」に対するリスペクトさえ感じました。
ノゾエさんが、夢でよく見るのは、「追いかけられる夢」と「落ちる夢」だそうです。(見る見る! ベッドの上でビクン!ってなったりする! 笑 )
「夢と現実では、時間の感覚が違うけれど、夢と現実がお互いに影響を及ぼすこともある。異世界だけど地続き、みたいな物語を書いてみよう。」ということで、これを書いたそうです。
ちなみに、黒澤明監督が「夢十夜」を元に作った映画が、「こんな夢を見た」から始まる、『夢』。
ノゾエ征爾さんは、ご自分では「夢十夜」ならぬ「やや夢夜」と表現していました。
本当に、夢を見ているかのような、2時間10分でした。